さよなら、坂道、流れ星

第10話 自転車

翌日の夜はよく晴れていた。
星がたくさん夜空に輝いていて、これなら確かに流れ星が見られそうではある。ただし、都会ではないが特別星が多いほど田舎でもない小清瑞(この町)で、流星群のピークに近い日でもない限り“絶対”はあり得ない。

昴との約束の時間に千珠琉は家の外に出た。流れ星のことは気になるが、昴に会うのが少し久しぶりで妙に緊張する。昴が引っ越すと知ってから顔を合わせるのは初めてだ。
昴の家のドアが開くのを待っていたら—意外なところ—家の裏側から自転車を引いた昴が出てきた。不意打ちに心の準備も整いきらなかった。
「待ってた?」
昴にいつも通り普通に話しかけられて、千珠琉は首を横に振った。
「今来たっていうか、今家から出たとこ。」
緊張から、少しテンションが低めな話し方になってしまった。
「良かった。」
「なんで自転車?珍しい…。」
バイクに乗るようになって、昴が自転車に乗るのを見ることはほぼ無くなっていた。
坂道の多い小清瑞で自転車に乗るのは片道が必ず上り坂になるため、地元の人間は自動車やバイクの免許を早々に取得して、自転車にはあまり乗らなくなる。昴も例外では無かった。
「まあちょっとね。中学の頃はよく2人乗りしたよな。」
「…ダメだけどね。したね。」
今思い出はマズい。どこに泣きスイッチがあるかわからない。それでも“中学の頃”なんてワードが出てしまったら中学時代の思い出が一瞬で流れ込んでくる。
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