ひとりぼっちのさくらんぼ

「本当だ」



市原さんは手で前髪をおさえる。

お姉さんが近づいて、
「おはよう」
と言うと、市原さんはお姉さんの体を抱き寄せてキスをした。



(おいおいおい、あたし、ここにいるんだけど!!)



キッチンのほうに向けていた体を、あたしは素早く回れ右する。



ふたりのキスが終わるのを待って、
「朝カフェ行きたい!」
と、あたしは言った。



もちろん、市原さんには聞こえないとわかっているけれど。



「オシャレなお店の雰囲気を味わいたい!大人の恋愛の雰囲気をちょっと忘れたいんだけど!」



さすがに申し訳なく思っているのか、お姉さんはすぐに市原さんに朝カフェを提案してくれた。

市原さんはニコニコ笑って、
「いいよ」
って言う。



ものすごく爽やかな笑顔。

さっきまであんなにキスをしていた人とは思えない。






近所のカフェに来た。

令和元年に来てすぐに、お姉さんと来たカフェであり、市原さんとお姉さんが再び出会ったカフェでもある。



「ここ、よく来るの?」



市原さんがお姉さんに尋ねる。



「市原くんも?」

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