高嶺の花も恋をする【番外編追加】
その後、あっという間に2人の交際は社内に広まってしまった。

昼の社員食堂、佐伯の隣には満面に笑みを浮かべた莉緒の姿があった。

その光景に皆の視線が釘付けになる。

佐伯はそれらの視線に恐縮しながらも、向けられる莉緒の笑みに幸せを感じていた。

2人が楽しそうに話しながら定食を食べている周りでは、さまざまな声がひっきりなしに上がっている。

「....うそだろ。あの2人付き合ってるの?」

「何だよあいつ!マジかよ...ずるくねぇ?」

「俺達の高嶺の花が....もう立ち直れないよ」

「ねぇ...雨宮さんて、あの人に振られていたよねー?」

「えー、でもあの人何かカッコよくなってない?」

「髪切ったんじゃない?前は顔あまり見えなかったもん。本当だ。結構かっこいいかも」

様々な男女の声が飛び交う中、亜香里の叱責が割り入った。

「公衆の面前でイチャイチャしてるんじゃないわよ」

「何よ。別にイチャイチャなんてしてないし。ね、佐伯くん」

「.....うん」

小首を傾げて甘えた声で同意を求める莉緒に、佐伯は頬を赤らめながら小さく頷く。

亜香里の𠮟責など全く気に留めない莉緒は頬杖をつきながら佐伯に魅惑の微笑みを向けると、周囲から様々なため息が聞こえた。

「あんたは全く周りが見えてないからいいかもしれないけどね。見ている方は堪らないでしょ。無自覚にやるなら外でやりなさいよ。あ~んって食べさせ合いでも何でもさ」

そんなからかいのイジリは莉緒に通じるわけもなく。

「そっか!外ね。佐伯くん!今度外でランチしようよ。私お弁当作ってくるから!」

「えっ....うん。ありがとう」

佐伯はお礼を言いながら、更に強くなる周囲の視線と思念を感じていた。

「雨宮さんの手作り弁当?」「マジかよ...」「何でアイツばっかり」という声も聞こえてくる。

それでも隣で「え~じゃあ、佐伯くんはおかず何がいい?。やっぱり定番の唐揚げとか卵焼きかな。佐伯くんは卵焼きは甘いのとだし巻きどっちが好き?」と顔を近づけて瞳をキラキラさせて好みを聞いてくるその可愛さには勝てない。

「甘いのが好き」

周囲の圧を感じているのに、目の前の愛しい人に夢中になる佐伯も周りが見えなくなる。

そんな2人を見て苦笑しながら、亜香里は大盛りのきつねうどんを啜るのだった。
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