高嶺の花も恋をする【番外編追加】

いつも『呼び捨てでいいよ』と言ってくれたけど、そう言われる度に僕は照れてしまって呼び捨てやあだ名で呼べなかった。

それでも同期のみんなはいい人ばかりで、僕に無理は押し付けずに普通に接してくれた。

彼女もみんなと同じように分け隔てなく接してくれたり話しかけてくれて、それがすごく嬉しかった。

ずっとあの初対面の時から、ほのかに憧れの気持ちを持っていたから。

そんなある日彼女とエレベーターで一緒になった時、彼女を間近で見て触れてしまった。

今までだって密かに意識していたのに、あんな風にそばで見て触れてしまって、どうしようもなく意識するようになってしまった。

その後何故か彼女から話しかけられる事が多くなったけど、それと共に僕に嫌みを言ってくる男性社員が増えていった。

「何、お前」

「雨宮さんと知り合い？同期だっけ？紹介してよ」

そんな言葉を断ると、「お前何様？」と詰め寄られた。

彼女に終業後に食事に誘われた時もそう。

僕達の間に割り入ってきた人には睨まれ、その場を後にすると近くにいた人に「お前まさか彼女とつきあってなんかいないよな？」と確認された。

付き合ってないと答えれば、「そりゃそうだよな」と蔑む目付きで失笑された。

彼女は高嶺の花と言われて皆が憧れている。

そんな彼女がどうして僕をかまってくるのか分からなかったし、彼女に話しかけられる度に周りから中傷されることが辛かった。

すべては自分に自信が無かったからだけど。

彼女に話しかけられる度に、戸惑う気持ちがどんどん膨らんでいった。

そしてあの昼休みの社員食堂で、彼女が突然『佐伯くんが好きなの』と叫ぶように言った時。

僕はパニックを起こしてしまった。

大勢が集まったあの場所で、皆が彼女に視線を向けていた。

そんな彼女が大声で告白まがいの言葉を発すれば、彼女に向いていた視線は僕に向けられ完全にパニックに陥った。

何が起きたのか？何を言い出したのか？全く意味が分からない。

そして何よりも刺さるような視線が怖くて。

彼女の言葉を遮って、『やめてください』だけでなく『迷惑なんです』とまで言ってしまった。

今考えたら信じられない。

彼女の好意を『やめて』とか『迷惑』などの言葉で突っぱねたり否定するなんて。

未だに後悔に襲われる。