身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

この婚約を断ったら当然、合併のまま話が進むのだろう。シーナ製紙という名前がなくなったらもちろん私たちも寂しいが、社長として会社を守ってきた父の喪失感は計り知れない。経営責任を感じているだろうし、さらに後継者としての前提で関係を深めてきた光汰さんの期待も裏切ることにもなってしまった。

それでも花純には幸せになってほしいから誰も政略結婚など望んでいないけれど、この婚約話は、シーナ製紙にとって知らなくてよかった希望を見てしまった気がする。

「……お父さん。私じゃダメかな」

 私はテーブルの写真を手に取り、ゆっくりと開いた。

「香波?」

父と母は顔を上げ、困惑した表情を見せた。

「ほら私、外見は花純と瓜二つなんだし、似せれば代わりに婚約者にしてもらえるかもしれない」

「香波ちゃん……なに言ってるの」

「香波。そんなことは私たちは望んでいないよ。今日はただ、花純に断る意志を確認しただけだ。香波に代わりをしてほしいなんて思っていない」
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