身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「急に婚約話を持ちかけてしまい、申し訳ない」
強気に構えていたはずが、彼に頭を下げられ戸惑いの気持ちが大きくなった。
「いえ、そんな……。今日はよろしくお願いします」
私も彼も席に着き、改めて顔を見せ合った。窓から控えめで上品なライトアップの光が目に入り、彼の輪郭を滑らかに照らしている。こんな中で見る貴仁さんの顔は、驚くほど綺麗だ。それに向けられる視線にはどこか熱が込もっていて、冷たいと感じたはずの瞳は今夜は情熱的でロマンチックに見える。
「花純さん」
小さく呼ばれ、上目遣いで見つめられて胸が鳴る。しかし自分の名前ではないため「ドキッ」ではなく、「ギョッ」という音に近かった。
花純への婚約話に対し一度会いたいという趣旨の返事しかしておらず、ここへ座っているのは花純ではないという肝心な話をしていないのだ。きちんと話しておかなきゃならないのに、どうにも切り出しにくい。