身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「すまない、俺の顔が赤いだろう。きみを前にすると……どうにも余裕がない」
わ……。彼は言葉通り頬が赤く染まり、額に手を当てて落ち着こうとする仕草をした。ここで対面してからずっと予想外の反応をされるものだから、私はうまく言葉が出てこない。
貴仁さんって、本当に花純に惚れているんだ。自分以外頼るつもりのない一匹狼のはずなのに、花純相手にはこんなに焦ってしまうなんて。エレベーターで目にした彼の姿に少し近い。ということは、弱みを見せてしまうほどの存在が花純だということだ。
「私もです……こうして見つめ合っていると、なんだか緊張しますわね」
こちらも彼を上目遣いで見つめて応戦する。社交界ではお嬢様の言葉を使っている花純に口調も似せてみた。私だってしとやかな女性を演じようと思えば、できるんだから。毎日隣でお手本を示してくれている花純のおかげだ。
「……今日は少しイメージが違うな。俺はきみを怖がらせているのか?」
「え? いえまさか。いつもと同じですわ」
まずい。少し気を緩め過ぎたのか怪しまれてしまっている。もっと花純らしくしなければ。
……て、それも違う! どこかで花純ではないと話さなければならないのだ。でもこんなに花純にベタ惚れの彼に正体を明かしても破談になる可能性が高い気がするし……。私でもいいと思わせるきっかけがあればいいのだが。