身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「呼んでくれ」
秘書が呼び寄せる電話を入れてしばらくすると、三橋と花純が到着したと知らせがあった。内密にと言っていたため出迎えず、専務室から近い応接へ案内させる。待っていると秘書に連れられたふたりがやって来た。
「柊専務。お忙しいところお時間を作っていただき、申し訳ありません」
三橋と花純は入った瞬間に一礼し、俺が「いえ、どうぞ」と返すと顔を上げた。
三橋を見て、ああやはり一度挨拶をしたことがある、とやっと思い出した。ブラウンがかった髪を後ろへ柔らかく流し、細身のネイビーのスーツを着た姿は花純と似た印象がする。副社長にして若く、娘をまかせる辺り社長の信頼も厚そうだ。たしか合併に先んじてシーナ製紙に出向いたときに顔を合わせた。そのときはなにも思わなかったが、この男が花純の恋人だったとは。
ふたりは促すと席に着いた。花純は不安げに婚約者に寄り添うだけで話そうとはしないが、引き替え三橋は、低姿勢でありながら俺への視線が妙に鋭い。ああ、警戒しているのか。俺が一度、花純に求婚しているから。婚約者として釘を刺しにでも来たのだろうか。だとしたらくだらない。
隣に座る花純へ今一度目を向けると、俺の好みとは大きく違う。あんなにも好きだったのが嘘のようだ。あの思い出は今も消えていないのに、目の前の花純はまったく別人に感じる。あの日の花純は、もう、どこにもいない。