身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

既読をつけたが返信はしなかった。一番最初に彼を騙して傷つけたのは私かもしれないが、だからって好きなだけ振り回していいというわけではないはずだ。つまらない反抗だが、別れを意識すると従順であり続けることが難しくなってきた。

わざわざ食事をしながら終わりを告げてもらう必要もない。なんならメッセージでいい。そしたら今夜はひとりでホテルにでも泊まって、翌日離婚届を記入して戻ってくる。私はきっと無心で、淡々とやる。区役所への行き方と、戻る前にカフェに寄ってひと息つくところも想像した。覚悟はできている。

返事を返さないままソファで横になって数分後、玄関のドアが開く音がした。貴仁さんが帰ってきたのだとわかると、緊張と不貞腐れた気分とで背もたれ側へ寝返って頭を埋める。

「帰っているじゃないか、香波。連絡をしたんだが。食事に行こう」

彼はジャケットを着たまま私のいるソファへ腰掛けた。

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