銀色ネコの憂鬱
「え…」
「だってさ、スミレちゃん俺の絵に興味ないでしょ。」
蓮司が言った。親しげに名前を呼んだが声色は明らかに不機嫌だった。
「興味ない?」
「俺は基本的に静物画しか描かない。それにこの作品見たら“思ったより大きい”とか“デジタルじゃなくて絵の具で描いてるんだ”とかなんか感想言うのが普通だろ。今まで全員そうだった。」
「……それは…」
「それにあんたやっぱ無防備すぎ。」
そう言うと、蓮司は菫に触れそうなくらい顔を近づけた。

「きゃっ」
———ガタッ

菫は焦って椅子を引き、倒れそうになった。蓮司が腕を掴んで支えた。
「よく知らない男と密室で二人きりで、こんな至近距離。何されても文句言えないんじゃない?それともそれが目的?俺の絵に興味ないバカな女と仕事なんてできない。」
菫は動揺で心音が聞こえそうなくらい心臓がドキドキしていた。
「帰ってくんない?時間ムダにして気分悪いわ。」
菫の腕を離すと、蓮司は冷たく言い放った。
蓮司は作業台に背中を向けて、アトリエの奥に去ろうとした。

「む、無防備なのは…」
菫が震えた声で口を開くと、蓮司は振り向いた。
「…たしかにバカだったので、何も反論できないです。うちの社長にも、外で打ち合わせするように言われてました。でも意味を理解してなかったです…。すみません…。」

———はぁっ

蓮司が溜息を()いた。
「言いたいことはそれだけ?別に謝罪とかいらないから、さっさと帰って。その社長も部下がバカで残念だったね。」
「いえ、あの…」
「なに?」
蓮司がますます不機嫌になる。

「キャンバスが大きいのも、絵の具で描いてるのも…その…知ってたので…というか見たことがあったので…」
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