銀色ネコの憂鬱
「変わらないわね〜、ここ。」
アトリエに入った海老原が言った。
「………」
鈍い菫でも、女の勘が働く。
———ニャァッ
スマイリーが菫の足にまとわりついた。
「へぇ、猫は変わったんだ。」
海老原は笑いの混じった口調で言った。
(“変わった”って…この人さっきから、すっっっごく嫌な感じじゃない?)
「お茶…淹れるので、どうぞ座ってお待ちください。」
「ふぅん、お茶なんてあるんだ。あの子、炭酸水くらいしか飲んでなかったのに。」
ここに菫がよく訪れるようになって、お茶や菫の好む食べ物を置くようになっていた。
(“あの子”とか、昔を知ってるアピールとか…いちいちマウントとってきてるなぁ…)
スミレは若干の苛立(いらだ)ちを覚えつつ、キッチンに向かった。
そんな菫を尻目に、海老原は蓮司の絵が置かれているスペースに向かった。

菫がお茶を持って長机に向かうと、海老原は席に戻っていた。
「あなたも座ったら?お話ししましょうよ。」
「いえ、私は…」
(この人とはあんまり話したくない…)
「蓮司の新しい彼女なんでしょ?」
(新しい…)
菫は思わずムッとした。
「顔はとってもかわいいけど、なんていうか普通の人って感じね。」
「あの…」

———ガチャッ

「ただいま。」
玄関から、蓮司が帰ってきた声が聞こえた。
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