銀色ネコの憂鬱
『スマイリーも養わなきゃいけないしね。』
蓮司の言葉が浮かんだ。

「ダメ!蓮司!蓮司が問題起こしたら、スマイリーがご飯食べられなくなっちゃうよ!!」

蓮司の腕がピタッと止まって、菫の方を見た。
「そ、それに…京都の職人さんだって、頑張ってくれたのに商品発売できなかったら悲しいし…」「それに…」
菫の声が掠れる。

「それに私…も、きっとまた泣いちゃう…し…」

「………もう泣いてんじゃん…」

蓮司の声と目つきが、普段の穏やかなものに戻った。

「れんじの手は…人をなぐるためのものじゃないし…」
「………」
「わたしは…れんじの顔なんか知らなくたって、あの個展で感動したよ…たしかに…開催できたのは海老原さんのおかげかもしれないけど…あの個展があったから…わたしは仕事頑張れた…」
「………」
「こんな記事で…こんな人たちが、どんなに蓮司の絵を汚そうとしたって、蓮司の絵は汚れないよ…汚れたって…」
「………」
「私が、がんばってきれいにするから…だからもう、こんなことで傷つかないでよ…」
菫は泣き続けていた。

「スミレちゃん…」
蓮司の手が菫の頭を撫でた。
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