契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
◇「完全な絶縁が条件です」


『柚希』

たくさんの人に呼ばれてきたはずの名前の響きが、まるで告白のように聞こえた。

それはきっと、雨に打たれた私の頭が若干ショートしていたからなのだろうけれど、問題はそこじゃない。
恋人を前にしたときの悠介を垣間見た気がしたことだった。

いつもは飄々としていて、〝社会的地位と紳士的態度を身につけた大きな男子〟の悠介が、恋人の前ではあんなに色っぽく、あんなに熱のこもった眼差しで迫るのかと、知ってしまって以来、なんとなく彼にどんな態度で接すればいいのかがわからなくなっていた。

表面上はいつも通りを心掛けていても、もともと演じられるタイプでも嘘がつけるタイプでもない。
よって、悠介が私の態度にどこか疑惑の目を向けるようになるのは当然だった。

夏美さんからランチの誘いを受けたのは、そんな視線をチクチクと感じ始めて三日が経った金曜日のことだった。


夏美さんが連れて行ってくれたのは、展望が見事なビュッフェ。三十八階の部屋に住んではいるものの、当然場所によって見える景色が違うため、料理の前にまず展望のよさに感嘆のため息が出た。

こちらも思わず息が漏れるほどの料理が並ぶ中から、それぞれお皿に盛り付け席に戻る。

雑談をしながら食事を進めていると、不意に夏美さんが私の左手をとり、指輪を見て目を輝かせた。


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