もう一度、重なる手
「それ、本気で言ってる?」
目の前で翔吾くんが、薄く開いた唇をわずかに震わせている。
「本気だよ。このままだと、私も翔吾くんもお互いに苦しいだけだし――」
冷静に言葉を返すと、翔吾くんが勢いよく立ち上がって、手のひらでテーブルをバンッと叩いた。
「こんなふうになったのは、誰のせいだと思ってんだよ!」
翔吾くんの剣幕に驚いて思わず一歩後ずさる。
そんな私に二歩で歩み寄ってきた翔吾くんが、私の手首を強くつかんだ。指が肉に食い込むほどの力で両腕を圧迫されて、痛みに表情が歪む。
「痛い……」
小さく訴えかけたけれど、翔吾くんは私の手首を力加減なく締め付けてくる。
「将来も考えて付き合ってたつもりの彼女に、理由もなく結婚渋られたら、ほかに男でもいるんじゃないかって疑っても仕方ないだろ」
「翔吾くん以外に付き合ってる人なんていないよ」
「じゃあ、《アツくん》はどうなんだよ。あの人がいるから、俺の両親に会うことも俺との結婚も渋ってたんだろ。別れたいって言い出したのも、どうせあの人と堂々と会いたいからだろ」
「そうじゃないよ。このまま相手を疑ったり怯えたりしながら付き合い続けても、私たちお互いに幸せになれない」
「それで、史花は俺と別れて《アツくん》と幸せになるつもりなんだ?」
口角を引き上げる翔吾くんの目は完全に座っていて、まともじゃない。
それでも、私はきちんと翔吾くんと話をして、彼との関係を終わらせなければいけなかった。