もう一度、重なる手

「ごめん、史花。許して……。もう二度としないから……」

 最後は本当に泣き出してしまった翔吾くんが、私の肩に縋るように抱きついてくる。

「ごめん、史花。もう絶対にしない……。だから、俺から離れないで。史花のことが好きなんだ……」

 翔吾くんが、強い力で私をぎゅっと抱きしめてくる。

 翔吾くんの口から繰り返される「ごめん」と「好きだ」という言葉。それを聞きながら、私は母のことを思い出していた。

 二宮さんと離婚したあとに母が付き合った人は、普段は気が弱くて優しいのに、お酒を飲むと手が出るタイプだった。

 ある夜、お酒を飲んで帰宅した恋人に痣ができるほど殴られた母は、私を連れて恋人から逃げた。

 二宮さんの家を出てから一年も経たないうちに急な引っ越しを決めた母に文句を言うと、いつもいい加減な母が、「自分と史花を守るためだから」と妙にキッパリと言い切った。

「史花も覚えときなさい。人を殴って『もうしない』って言う人は、また同じことをするから。『もうしない』って本気で思っている人はそんなこと言わないし、そもそも恋人や家族を殴らない」

 私の母は、基本的に男の人に依存してばかりのダメな人だけど……。恋人に暴力を振るわれて即座に逃げたあのときの判断だけは、たぶん賢かったのだと思う。

 無抵抗で抱きしめられていると、翔吾くんが殴った私の左頬にキスをしてきた。

「ごめん、史花……」

 もう何度目になるかわからない謝罪の言葉を聞きながら不安になった。

 私は、翔吾くんから――。彼の執着から逃げ出せるだろうか。

< 125 / 212 >

この作品をシェア

pagetop