もう一度、重なる手

 アツくんが、私の家にいるなんて……。

 アツくんの家に比べると狭くて散らかっているけれど、彼が私の部屋に来てくれたことが夢のようで。私はドキドキしながら、キッチンに移動してコーヒーメーカーに豆と水をセットした。

 コーヒーメーカーの電源を入れると電動で豆が挽かれて、ふわっと苦くて良い香りが漂ってくる。

 その匂いを吸い込みながら振りむいて様子を窺うと、アツくんは立ったままテレビ台の本棚を眺めていた。

「なんか、フミの部屋って感じだね」

 私の視線に気付いたアツくんが、文庫本のひとつに指で触れながらふふっと笑う。

「そう?」

 ベッドと食卓代わりの折りたたみ式のローテーブル、テレビと本棚。

 狭い部屋にぎゅうぎゅうに必要な家具だけを詰め込んだ私の部屋はシンプルで、変わったものは特にない。

 首を傾げながらアツくんのそばに歩み寄ると、彼が触れていた文庫本を本棚から引っ張り出してパラパラとページをめくった。

「本がいっぱいだ」

「ああ、うん……。昔はお金もなかったから、図書館の本や古本屋で手に入れた本を読んでたけど、社会人になってからはよく本屋さんで新巻を買うの。小さな頃から自分だけの本棚が欲しかったから。部屋のスペース的にあまり大きなものは置けないけど、満足してる」

 白い木製の本棚の縁を撫でると、アツくんが「そうだったんだ」とつぶやく。

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