もう一度、重なる手
「実家には呼ばれたけど、まだ結婚とかそういうのは……」
「でも、フミのことを実家の両親に紹介したいってことは、彼のほうはフミとの結婚を考えてるんじゃない? お互い二十代後半なんだし、その年で将来を考えてもない子を親に紹介しないと思うけど」
「そういうもの……?」
「まあ、俺には今のところそこまで覚悟を決めて付き合ってた人はいなかったから。でも、付き合ってる人を父さんに紹介するときは、結婚を決めたときかなとは思う」
「そっか……」
アツくんの話を聞いて、私は少し複雑な気持ちでうつむいた。
「前に会ったときにフミが元気がなかったのって、もしかして彼のご両親に会うかどうかで悩んでたから?」
返答に迷ってから、無言でコクンと頷く。
「実はね、今付き合ってる人には、父を小さい頃に亡くして家族は母だけって言ってるの。アツくんはわかると思うけど、私のお母さんってあんな感じでしょう。お母さんのこれまでの男性遍歴とか、結婚の予定もない人と同棲してることとか、そういう話をすると、彼にも彼のご両親にも引かれるんじゃないかと思って……」
「たしかに全てを正直に話したら驚かれるかもしれないけど、お母さんのこれまでの恋愛遍歴がフミ自身の評価に関わることはないんじゃない?」
不安の言葉をこぼす私に、アツくんは優しかった。
アツくんだってほんとうは、二宮さんのことを裏切った母のことをよく思っていないはずなのに……。