この胸が痛むのは
そう言われても、差し出されたその手を、殿下が
仰せになるまま取ってよいものなのか……
さすがの私も、それはあまりに身の程知らずであるとわかります。


「さっきまで、私の目を見て話してくれていたのにね?」

アシュフォード殿下が寂しそうに仰られたので。
私はつい……

「私もお友達になりたいです!」  

「よし! 次は君のウチにお邪魔しよう!」

あまりにも明るく、弾んだ声に。
さっきまで、あんなに……あんなに力無くお寂しそうだったのに。
あれは、演技というものなのでしょうか?


ウチは嫌です、と言えばよかったと。
後から何度も後悔しました。

アシュフォード殿下と姉のクラリスは王立学園高等部の同級生で、初等部の頃から学園内では何度もすれ違っていたと思います。
だから、初対面ではなかったのですが。
ウチに遊びに来られた殿下は。

学園では興味を持っていなかったのに。
姉と顔を合わせて、個人的に会話を交わしたことで。
クラリスを意識するようになったのです。

それは、謂わば……
私がふたりを結び付けてしまったのでしょう。

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