この胸が痛むのは
苛められた事を恥じなくてもいい、と言ってくださった気がして。


「姉も、あの、クラリス・スローンと申しますが、先生の授業を選択していまして」

「……」

「姉から以前、伝承民俗学が面白い、先生が最高なのだ、と聞いていましたので。
 私も高等部に進んだら、是非先生の授業を受けたいと思っておりました」

「……あ、あぁ、そうなんだ……」

それまで饒舌にお話されていた先生が少し口ごもられたのに、私は気付きませんでした。


「それは光栄だけれど、申し訳ないな。
 僕は来年で契約終了で、母国に帰るんだ」


先生の母国とは。
東の国、トルラキアなのだと教えてくださいました。
国土の半分を覆う黒い森と数多い湖の国、
トルラキア。


「ヴァンパイア伝説が有名だよね?」

「……」

「その他にも悪魔払いや妖精や死人還り。
 僕の専門はそういう妖しい伝承に関するもの
でね」


そう話す先生の赤い瞳は先程のキラキラより、
少し陰りを帯び始めていて……


「僕の名前のイシュトヴァーンは、ヴァンパイアの起源と云われるトルラキアの英雄から取られたものなんだ」

「ヴァンパイア、って吸血鬼のこと……」
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