この胸が痛むのは
「とても素晴らしい逸品だったと見た者から聞きましたけど。
 ですが、後から帰ってこられた旦那様が、それを返すようにと仰られて」

「……」

「珍しくおふたりで口論になって。
 旦那様は渡しなさいと仰せになるし、クラリスお嬢様は殿下にいただいたのだから、絶対に渡さない、と」



結局、あきらめた姉は父に渡した、という事でした。
姉の部屋なら入れますが、父の執務室には無理でした。
実物が見られないのなら仕方ありませんが。


「どんなブレスレットだったかだけでも、知りたいなぁ」

「とても細いプラチナに紫色の宝石がいくつも嵌められていた見事なものだったそうですよ」

紫色……アシュフォード殿下の瞳の色でした。


何が特別な意味はない、だ?
私は嘘の手紙を信じて。
子供だから簡単に信じて。

家に帰す為に協力した殿下に、私は騙されたのだと知りました。
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