この胸が痛むのは
殿下はやはり、姉の事を気にしていらっしゃる。
ここははっきり否定しましょう。


「いいえ、私と祖母と祖母の世話役のご婦人と」

多分、後は護衛のような男性がひとり、それと
メイドや荷物持ちの下男が加わるぐらいでしょうか。
祖母は先代の伯爵夫人ですので、ふたりきりと
いう事にはなりませんから。


「じゃあ、どうしてトルラキアなの?
 あの国は、あの、女の子が行きたがりそうな
感じじゃないよね?」


女の子……。
お誘いを断り、吸血鬼や悪魔や死人が棲む国へ
行こうとする女の子を心配するなんて、本当に
本当に。
殿下はお優しいひと。


「子供は怖いものが好きですから」

私がにっこり笑ってそう言うと、殿下は少しだけ困ったように微笑みました。
< 137 / 722 >

この作品をシェア

pagetop