この胸が痛むのは
「貴族街に往復する馬車代ともう1枚は貴女へのお礼なの。
 おウチに帰る前に寄って貰うのに、これぐらいしか渡せなくてごめんなさい」


母からは仕事を多く抱えている使用人に、それとは別に自分の用事をさせるのなら、きちんとお礼は言いなさい、と教えられていました。
アシュフォード殿下へのプレゼントには使えなかったけれど、こんなところで役に立ってくれて、お金って、なんて便利で、なんて凄い物なんだろうと実感しました。
そして夜に戻ってきたロレッタから、祖母の返信を受け取ったのでした。


「トルラキアなら、私も行きたいんだけど……」

いつもハキハキの話される姉なのに、少しだけ口ごもっていて。


「ねぇ、どうしてトルラキアなんて言い出したの?」

「ご存知ですか? あの国では姓が先に来るそうですね。
 それに長子の男児にはイシュトバーンと名付ける事が多くて、一軒のおウチに3人のイシュトバーンが居たりするそうですの。
 そんなの面白いですよね?」

「え、それ……」

先生はこの話を、クラリスにも話したのかな。
< 139 / 722 >

この作品をシェア

pagetop