この胸が痛むのは
どうしてかわからなかったのですが、姉の様子が可笑しくて。
7つも歳上の姉が、私の前で少し動揺しているのを見るのは初めてで。
可笑しくて。


「イシュトバーン・ストロノーバが、ストロノーバ・イシュトバーン・ミハンになるなんて面白いですよね」


まるまる休みになる初等部と違って、高等部には途中で登校して、講演会や特別授業もあったりするので、私達と一緒に国外へ行く事は難しいから。
姉は殿下と、王家の別荘で楽しめばいい。
私はおばあ様と、お化けの国へ行くの。


「……ストロノーヴァ先生と会ったの?」

「もう来年でトルラキアへ戻られると聞きました。
 伝承民俗学のお話を聞きたかったら、いつでもいらっしゃいと言っていただいたのです。
 お昼休みに図書室に居るから、って」

姉は発音が難しい先生の名前を、ちゃんと口に
しました。


「旅行へ行く前に、いっぱいトルラキアの事を
教えて貰おうと思ってるんです」

もうこれで、この話はおしまい。
そう伝えたくて、私は部屋を出ました。
それで後に残されたクラリスがどんな顔をしていたのか、確認は出来ませんでしたが。
何だか姉に対して、ざまあ見ろ、と言ったような。
胸の辺りが、スーッとしていく事に気付いたのでした。
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