この胸が痛むのは
トルラキアへ旅立つ日がいつになるか教えて、
と言われていたのに、お知らせしませんでした。
そうやってお顔を見ないように、会わないように避けてきたのです。
その方が早く忘れられるから、と。



その日は何処かへ観光も行かず。
連日の観光で少し疲れたからと、祖母は午後の
お茶までベイシス夫人とお部屋で昼寝をすると
言って、引きこもっていらっしゃいました。
私は待望のパエルさんと初対面の約束をしていて。

ですが、約束の時間になっても彼女達は現れず。
『両親に見つかりたくないから外で会いましょう』と、言われていて、私はここなら知っているからとホテルからそれ程離れていない教会前の
ベンチに座っていました。
教会の前なら、ヴァンパイアや死人に襲われる
心配はありません。


そう思って、ここにしたのに。
私は思わぬ人物の襲来にあって……
すっかり、待ちくたびれた私の前にやって来たのは。

何も聞きたくないけれど、会話がしたい。
忘れたいのに、忘れられない。
会いたくなくて、会いたくて。


「早く会いたくて、迎えに来たよ」

アシュフォード殿下でした。
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