この胸が痛むのは
「それはさすがに、口が過ぎるぞ」

「お気を悪くされたのなら、お詫び申し上げます。
 ……ですが、時間は無限にあるものではありませんから」 

「……」


あまりの言い種に、さすがの俺も我慢出来ずに。
この無礼者に何か王族の威信を見せねば、と。
しかし情けないことに何も言えず。


そんな俺にそれだけ告げると、侯爵は礼をして。
背中を向けて行ってしまった。


その時は何を、侯爵が言いたかったのか、よくわからなかった。
この王城で、自分の力で、アグネスを守る。
そう決心したが、それは例えば……

もう乳母の言いなりにならない。
簡単に王太子を頼らない。
少なくとも自分に関するものは、自分の目で確認して人任せにしない。
それと……直ぐには思い付かないが、徐々に色々なものを身に付けていこう、だった。


しかし、侯爵は『何か』と言った。
俺が考えていた抽象的な(ぼんやりした) ものじゃなくて、具体的なものを言ってるんだと気付いた。


俺の力になる『何か』。
『何か』を得て、示せ。



「まぁさ、問題は数々あるだろうけど?
 取り敢えず、目の前の難問をクリアしていこう」

レイの言う難問とは、学年末試験の事だ。
試験で首位を取る、侯爵が言いたいのはそんなことじゃない。
俺の武器になる何かを見つけないといけない。

時間は無限にはない。
< 157 / 722 >

この作品をシェア

pagetop