この胸が痛むのは
俺の武器になるもの。
『こぼさずにテーブルまで運べる』じゃ、侯爵に鼻で笑われるな。
でも、初めてなんだ、うまく運べたと思う。


「母が唯一、自分の手で育てる事が出来たのが
アグネスなんです。
 私と弟は、母の初乳は飲みましたが、その一度きりなんです」

「……」

初乳、って何だ?
クラリスの言っている意味がよくわからないが、俺もレイも黙っていた。
この場ではまず、クラリスに話させよう。
侯爵夫人の話には興味はないのだが、何でか語りたがっている。


 ◇◇◇


私は最初の子供だったので、当時当主夫人だった父方の祖母が育てる、と言い張って。
祖母が選んだ乳母や侍女、吟味した服。
母には口出しする事は許されませんでした。
母は18歳でしたから頼りなく思ったか、次は男児を産んで貰おうと、赤ん坊にかかりきりにならない様に配慮があったのかも知れないですけれど……
赤ん坊に乳を与えないと次の子供が出来やすいから、と祖母は母に言ったそうですの。

それから3年後が嫡男のプレストンですね。
結婚5年目の待望の男児だったので、今度は先代当主の祖父が選定した乳母をつけて、教育はこの先生に、と自分の管理下に置きました。

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