この胸が痛むのは
いいえ、貴方を嗤っているのではありません、と私は口にはしませんでした。
嬉しくて、つい笑顔になってしまったのです。


「友達になってくれるね?
 私の身分など気にしなくていい。
 アグネスには、ただのフォードで接しているからね。
 それは最初からだし、これから先もそうだよ」


ご自分の身分を知った私が、畏れ多いと萎縮したのに気付いて、貴方は手を差しのべてくださいました。
そして私は。

もうすぐ16歳になる、と仰せになった貴方の。
その言葉を信じ、9歳の私はその手を取ったのです。
……友達になんて、なれるはずもないのに。




いつも静かな声で、優しく私の名を呼んでくださいました。
それなのに、その穏やかな口調より、今の吐き捨てるように投げつけられた、その言葉の方を嬉しく思うなんて。
私は既に、おかしくなっているのでしょう。


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