この胸が痛むのは

第40話 アシュフォードside

先触れ無しに、いつもとは違い平日の昼前に訪問してきた俺を、スローン侯爵家の家令は落ち着いた様子で出迎えた。


「申し訳ございません。
 アグネスお嬢様は、まだお戻りではございません」

「いや、あの、今日は侯爵夫人とクラリス嬢に……」

「奥様はお出掛けされましたが、お嬢様なら」


応接の間に通そうとされるが、此処で待つと玄関ホールで降りてくるクラリスを待った。
程無く、クラリスが降りてくる。


「ようこそ、アシュフォード殿下」

今日も完璧なカーテシー。
腹が立つほどに通常だ。
もう受け取ったよな? 留守だと言う侯爵夫人はあれを見たのか?
一気にそう尋ねようとした俺に、声を潜めてクラリスが言った。


「少し、お願いしたいことが」

一刻も早く、ドレスの回収とカードの破棄を頼みたいが、間違えたのはこちらのミスだ。
抜け目がないクラリスの事だ、応じる代わりに何か要求があるのかも知れない。
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