この胸が痛むのは
隣でレイが絶句して。
……やがて嗚咽が聞こえた。



あの夏、高等部1年の夏休みの、最初の登校日。
俺はちゃんと聴いていなかったけれど、例のピアノ奏者の講演会があったな。
あまり人のいない食堂で。
君は、微笑んでいて。

『母にとって一番愛しい子供はアグネスなんです』
 
諦めたように、寂しそうに微笑んで、そう言ったんだ。
そんな事はなかった。
君の母は、君を愛していた。
車軸に背中を貫かれても。
君の身体に回された母の両腕は、なかなか離れない。
それなのに、抱かれた君がそれを知ることは、もうない。


俺が泣くのは今じゃないのに。
……少し泣いてもいいかな。

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