この胸が痛むのは
義弟に熱心に言われて、しばらく考えていた侯爵もゆっくりと頷いた。

侯爵が早くふたりを連れて帰りたいのは、痛い程わかった。
だが、義母と娘の事を考えて同意したのだ。
息子の限界が近い事にも気付いていたと思う。
外套を羽織っていても、雨上がりの夜の森で長時間立っていた。
プレストンは高熱を出しやすい。
心身共に限界の、嫡男を家に早く帰した方がいいと判断したのだ。
辛い話だが、優先されるべきは死者ではなく生者だ。

侯爵が御者の事も頼むと、伯爵はもちろんだと
請け負った。
俺は3人を連れて帰ろうとした伯爵に、典医を
同行させたい事、3人の身体を整える際に彼にも立ち会わせたい事、これは王太子の意向である事を伝えた。
伯爵が了承したので、典医にそちらへ行くように、それが終われば、こちらに合流せず王城へ戻り、王太子に見たままを報告せよと命じた。

もう1頭の馬は、今のところ見つかっていない。
『明日朝から私設騎士隊全員で森一帯を捜索します』と隊長が言った。
騎士隊では馬の世話を、当番を決めて馬丁と共に行っていて、馬は彼等にとって相棒だった、早く見つけて弔ってやりたい、とも言った。


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