この胸が痛むのは
この2枚はどちらもアグネスが刺したものだ。
年数のたった、いかにも子供が刺したハンカチを侯爵夫人はとても大切にしていて、皆がそれを知っていて。
忘れたそのハンカチを取りに行き、護衛騎士は馬車を離れたのだという。
真新しいハンカチの方は、母と姉の消息を待つ間に
『お帰りになられたら渡す』と刺し始めて……
俺が帰る時にはまだ、完成していなかったから、今朝刺し終えたのだろう。

クラリスは本当に寝ているみたいで
『早く起きろよ』と起こしたくなった。
この女には本当に振り回されて、嫌な目や腹立つ事も多かった。
だけど、本当にもう少しで旅立てたのに。

『私もこう見えて、乙女なのです。
 覚悟を持って、恋する男性を追いかけたいのです』

中身はほぼ男の癖に、背筋を伸ばして言い切った。
ストロノーヴァ先生の話になると、乙女だったな。
 
……本当にトルラキアに、行かせてやりたかった。



『犯人がいるのなら、そいつを罰するのが、亡くなったふたりに世話になったお前が出来る最後のお礼だ』



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