この胸が痛むのは
思った通り、アグネスは夫人の肩を持った。
より力が弱い方の味方に付くのが彼女だ。
では、俺は先生側に付く事になるな。


「僕はね、実際に自分の目で見ないと信用出来ないんだ。
 もし良かったら、殿下に掛けて貰ってふたりで検証してみようか?」

え、俺が?
違うよな、アグネスにだよな。
反対はまだ言う時じゃないよな?


アグネスが俺を見る。
心細そうな表情をしてみようか、アグネスが庇ってくれそうな。


「王弟殿下に、それは如何なものか、と」

「そうだね、バロウズの民としてはそうだよね。
 アシュフォード殿下にお願いするのは不敬だ。
 じゃあ、君にお願いしてもいいかな?
 そろそろ伝承ばかり追いかけるのも疲れてきててね。
 結果次第では、僕の研究範囲も広がるから、とても助かるよ」

俺が頼んだから、先生は協力してくれているのだが。
ぽんぽんと早口で言われて、アグネスが気の毒になってくる。


「わ、私、ですか?」

「だ、駄目だ、アグネスは。
 止めて、私が」

俺が拙い台詞を言う。
トルラキアのふたりに比べて芝居が下手なのは、バロウズ王家の血か。
イェニィ夫人がにっこり笑って言う。


「ストロノーヴァ様でもよろしいと思いますけれど?」

「僕が掛けられたら、検証出来ないでしょう?
 やはりアグネス嬢に、協力して貰うのが一番いい」

「アグネスは駄目です、私が」

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