この胸が痛むのは
大人3人で言い合っていると、諦めたのか、呆れたのか、アグネスがわかりました、と言った。 


「催眠術を私に掛けてくださいませ」


彼女がそう返事をすると、すかさず隣に座っていたイェニィ伯爵夫人が立ち上がり、アグネスの足元に跪いた。


「アグネス様、利き手はどちらですか?」

「み、右です」

「では、右手を殿下にお預けしましょう。
 ずっと握っていていただくと安心ですわね」

夫人はそう言ったが、先生の方が安心するのでと言われたらどうしたらいいかと、それが一瞬頭をよぎったが、彼女の向かい側から右隣に移動した。
幸いなことに、アグネスは頷いて素直に俺に右手を預けてくれたので、両手で挟むようにして柔らかく握る。
この手は絶対に離さない。


「左手は私の掌の上に」

差し出された夫人の左の掌に、緊張した面持ちのアグネスが自分の掌を重ねた。

< 451 / 722 >

この作品をシェア

pagetop