この胸が痛むのは
蝋燭の灯りが穏やかに微笑む夫人の顔に影を落としていた。


「深く深呼吸をして、全てを私に委ねてくださいませ」

「イェニィ伯爵夫人……私……」

「どうぞ、私の事はアーグネシュとお呼びくださいね?
 私もアグネスと呼ぶ事をお許しくださいませ。
 私達は同じ名を持つ女同士です。
 私が貴女をお守り致しますから。
 ここでは誰からも貴女を傷付けたりさせません」

夫人は静かに感じのいい声で、語り掛けた。
少しでも安心させたくて、俺は握る手にそっと力を込める。


「術が上手くかからなくても、それはアグネスのせいではないの。
 貴女のせいだなんて、私が誰にも思わせないわ。
 だから、ただ私を信じて?
 貴女は目を閉じて息をするだけ、そう、そう
吐くことだけに集中して。
 吐けば勝手に吸えるから、吸うことに意識を
向けないで。
 そう、ゆっくり……ゆっくり……」


夫人の静かな声がやがて囁きに変わり。
それまで震えていたアグネスの右手から緊張のこわばりが消えた。
深く吐くだけの呼吸を繰り返させて。


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