この胸が痛むのは
「もう伯爵位が始まったから、国王陛下が迎えに行け、と」


私にはそう言って、兄に先立って歩き始めました。
殿下が歩む先では皆が譲り、道を作っています。
先には父が、私達3人を待っていました。

ドレスの裾を捌きながら、前を向いて歩く練習は。
殿下とは途中で終わってしまったけれど、トルラキアでは、ひとりで続けていました。

姉の身代わりなんて嫌だ、と言いながら。
優しい眼差しを避けて、差し出された手を握らなかったけれど。
殿下から離れたい、と願いながら。
私はこの日をずっと夢見ていたのです。


視界の端には初等部で同級生だった皆様が驚いた様に、殿下にエスコートされる私を見ているのが、見えていました。 
初等部6年を始まったばかりで中途退学した私が3年振りに現れて、王弟殿下に手を取られている。

苦々しく思われた方達からの小さな声が聞こえました。
それは大人達の声でした。


「あれだけ似ていたら」

「代わり、じゃない」

「殿下に見初められた、ということ?」


小さな声なのに、何故か耳に届いてしまった。
この私の姿を、かつてのクラリスを知っていた方達が見れば……


覚悟はしていても。
その声は私の中の奥深くに突き刺さり、抜けてはくれませんでした。
< 505 / 722 >

この作品をシェア

pagetop