この胸が痛むのは
この年、俺は2回シュルトザルツ帝国へ赴いた。
夏に2週間派遣されたのは、秋のバロウズ王国ーシュルトザルツ帝国間の二ヶ国租税条約の締結に向け、外務が根気よく続けていた地ならし交渉の仕上げの為だった。

王族として参加する公式行事や接待の宴席で、
帝国側の顔を覚え、間違えることなく、帝国の
発音で名前を呼び。
親しげに話す振りをして、色々としゃべらせて、その情報を如何に使うかを決める。
それが仕上げと呼ばれる、俺の仕事だった。 


前国王陛下退位後、兄の新国王がまず取り組んだのが、諸外国との各種条約の見直しだった。
前々国王の時代に締結されたそれらの条約は、
全て時代にそぐわない古いものだったが、前国王は改めようとせず、そのままにしていたのだ。
母国にとって、不利な条件のままの条約の見直しを、新国王は最優先とした。

即位式に列席してくださった各国トップとの短い会談で、好感触を得た国から交渉を始めていて、同時期から開始したリヨン、ラニャン、とは既に締結していた。

国王陛下にとって幸いだったのは、二国のトップである王位に、バロウズと同じく新たな顔触れが就いたからだ。
兄がバロウズの国王となった後に即位したリヨンのフォンティーヌ女王、クライン王配殿下の兄であるラニャンのバイロン新国王の即位で、世代交代が続いたのだ。
彼等は一様に領地拡大の侵略戦争に国力を割く事を嫌い、国内の安定と自国権利の保持に重きを置いている。

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