この胸が痛むのは

第95話 アシュフォードside

9月4日の侯爵夫人とクラリスの命日に、
バロウズに居たのは今年が初めてだった。

去年までアライアに頼んでいたふたりへの花は、今年はカランに頼み、自分で持参した。
スローンとダウンヴィル両家の親族が集まっての昼食会は断ったので、その前にと午前中に侯爵邸へ伺った。
2週間前にも前伯爵夫人の命日に、親族は
ダウンヴィル伯爵家で集まっていたと、聞いて
いた。


俺を迎えてくれた侯爵には侯爵夫人への白百合を。
アグネスにはクラリスへの白薔薇を手渡す。
庭園の東側の奥に、大きな柏の木が植えられていて。
その根本に白い大理石の碑があった。

侯爵夫人とクラリスの遺体は遠い領地の侯爵家の墓地に埋葬されたが、王都の邸宅にもふたりを
偲ぶ美しい石碑を侯爵は建てたのだった。
2つの花束を添えて、3人並んで頭を垂れた。


プレストンと隊長の立ち会いの元、私設騎士隊の何名かが、柏の木の下に支柱を何本も立てていた。
今日はそこに日除けのタープを張り、その下で
昼食会が行われる。
下男達が長テーブルを運び繋げていく。
メイドが真っ白なテーブルクロスを広げている。
9月初旬の風は、まだ夏の香りがする。


< 591 / 722 >

この作品をシェア

pagetop