この胸が痛むのは
祈り終えた俺にプレストンが近付いてくる。
俺から声をかけないと、彼は話せない。


「ふたりに花を捧げさせていただいた。
 今回は君の仕切りなの?
 大したものだね」

「畏れ入ります。
 庭園での食事会のマニュアルがあって、その
通りに」

「侯爵も君に任せられる様になって、助かって
いるだろうね」

アグネスの前なので、当たり障りのない会話を
重ねていく。


「本日の昼食会のメニューと席順はアグネスの
担当で、立派にホステスの役目を果たしてくれ
ました」

プレストンがそう言うと、侯爵は目を細めて頷き、傍らに立つ娘を見て。
アグネスは兄の言葉に頬を染めた。


控えめなアグネスが照れているのを見たのは久しぶりだった。
初めての彼女の手腕を、出席してこの目で確認
出来ないのを残念に思った。


将来は公爵家の女主人だ。
彼女には内政や社交を任せる事になる。
最近は、それらの話をアグネスに語っていた。
自分からはあれこれ話さないが、俺の語る話を
聞いてくれて頷いてくれていた。
本来の彼女は賢くて強い。
褒めた方が、どんどん能力を発揮してくれると
感じている。



柏の木は翌年新しい葉が育つと、古い葉が落ちる。
その木の下で、老若男女の親族が集まり、亡くなったふたりの思い出を語りながら食事をする。
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