この胸が痛むのは

第98話 アシュフォードside

急ぎ侯爵邸に戻る。
アーサーが馬車寄せに立っていて、馬車を横付けした途端に駆け寄ってきた。


「旦那様と若様にも報せは出しています!」

「ゲイルが居ないのに、ひとりで始めたのか?」

ノイエとアーサーの3人で早足で玄関ホールから階段を駆け上がりながら、アーサーに尋ねた。
まさか、ひとりで?
誰かに頼んでかけて貰ったのか?


「ロレッタというメイドが居まして。
 金貨を渡して頼まれたようです。
 ドレスの着付けをお命じになられて。
 何か草を燃やして、それを持ってお嬢様の周りをまわるだけでいいと仰られて、終わったら部屋から出る様に仰せになった、と。
 恐ろしくなって、私のところに駆け込んできました」

「そのメイド、口は堅いな?」

「大丈夫です」


すかさずアーサーが答える。
いつも世話をしているレニーを差し置いて、
アグネスがお願いしたのだから、忠義に厚い
メイドなのはわかっていたが、一応確認だけは
する。


この邸には随分通ったが、2階に上がったのは
初めてだ。
クラリスの私室に先導されながら先生から聞いた手順を思い出す。
乾燥させた香草を燃やし、それを手にして風の
抜ける出口から見て、左回りに依り童の周囲を
まわる。
右回りにじゃなく、左回りに。

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