この胸が痛むのは
彼は昔からずっとエリザベートが好きだった。
好き、どころではなく熱愛していた。
……一方的に。

ひとつ年上なだけなのに、彼女には頭が上がらなかった。
しっかり者の彼女からは、優しく諭すように色々と注意を受けた。
優秀な兄シュテファンのように、器用に動けないノイエの背中を押してくれた。
『ノイエ』と、幼い頃はふたりだけの時は呼んでくれた。

しかし、幼い子供じゃなくなり、お互いの立場が理解出来る年齢になると、ふたりきりであっても彼女は『ノイエ様』と呼ぶようになり……
それもこちらからやめてくれという前は
『オルツォ様』だ。

加えて、とにかく自分とはふたりきりにはならないように注意しているようで、ノイエは苛立った。


寄親の侯爵家令息と、寄子の男爵家の娘。
その立場を、崩してはならない。
自分に対して丁寧に応対するエリザベートに苛立ちながらも、どこか余裕も感じていた。
俺が望めば、エリザベートは抗えないと。


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