この胸が痛むのは

レイノルド1

夢見が悪かったせいか、寝汗を掻いていた。

年末から忙しくて身体は充分に休めていない。
強行日程のリヨンへの往復は、心身共に
レイノルドを蝕んでいた。
帰国して王都まで、大夜会の前には到着出来る
様に駆け抜けた。

レイノルドの主アシュフォードの想いびと
アグネス・スローンのデビュタントを兼ねた
新年大夜会。
それに間に合う為に、食事と短い休憩以外は
必死に馬を走らせた。

レイノルド・マーシャルにとっても、昔馴染みの
のアグネスのデビュタントは大変喜ばしい事で
あったから、気力体力の限界まで酷使されるのはやぶさかではなかったが。


だが、心のどこかでは。
大夜会に参加したくない自分が居る。
だから、こんな時間に目覚めてしまった。



リリアン・ロイズナー。
レイノルドの別れた妻。
彼女も今夜の大夜会に出席すると、共通の知人
から聞いていた。
結婚したのは3年前、離婚したのは2年前。
どちらも、言い出したのはリリアンだった。


レイノルドとリリアンの結婚は1年しかもたなかった。
いや、実際は1ヶ月。
結婚式からレイノルドがリヨンへ旅立つまでの、約1ヶ月。

『子供が居たら、耐えられる』と、ねだられて。
時間の許す限り濃密な時を過ごしたが、彼女は
身籠らなかった。
たった1ヶ月だけの妻だった。


< 672 / 722 >

この作品をシェア

pagetop