この胸が痛むのは
そんな矢先に。
レイノルドは夏休み前の図書室で、その男に
会った。

いや、それ以前に気が付いていた。
『あれの中身は男だな』と、アシュフォードと 笑っていた彼女が、頬を染めていたのを見た時
から。
とても大切なものの様に、男の名前を口にしたのを聞いた時から。
レイノルドは気が付いていたのだ。


この恋は始まる前から終わっていたと、いう事を。
気持ちを打ち明ける前から、聞いては貰えなかった。
だから、手に入れていなかった恋を失っても平気な筈だったのに。
これは……何だ?




彼女が今まで誰とも付き合ったことがないのは
知っていた。

古くから続く名門なのに、何故かスローン侯爵家の嫡男と姉妹には婚約者が決まっていなかった。
それはどこの家門とも政略結婚するつもりがないからで、有力貴族と縁付いて、今まで以上の過分な力はつけたくないと、侯爵は考えているらしい。


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