この胸が痛むのは
「わかった、マーシャルにそんな力はないと言うのなら、アグネスの事は王太子殿下に頼むよ」


そこまで言っても、侯爵の顔は厳しいままだし、クラリスは例の残念そうな目で俺を見ている。


「……人に頼るのではなく、殿下がご自分で守れる力を付けてくださる時まで、アグネスはお渡ししません」


侯爵にきっぱりと言われて、何も返せない俺に。
クラリスが笑顔を見せる。


「これがスローンの総意でございます。
 アグネスは我が家の掌中の珠なのです。
 畏れながら、簡単に手に入るとはお思いにならないでくださいませ」


王族に対して不敬である、とは言えなかった。
俺自身に力を付けてから、それはもっともな話だ。
アライア達は俺にとって身内だから見えていなかったが、指摘されれば。


アライアが特別なのではない。
王城ではそれが普通で。
自分が護るべきものだけを護り。 
その他を切り捨てることに躊躇わず。

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