逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
「おい、お前いつからそんな口きくようになったんだ? いつも何を言っても同じような返事しかしない、ハッキリ物事を言わない奴が! まさかお前、部長になにか吹き込まれてんじゃないのか? 」
はぁ?
何を言い出すかと思えば、僕を悪者にするのか?
「そうか。あんな動画を撮っていたのは、お前をたぶらかす為だったんだな? あの部長」
「何を言っているのですか? 貴方が、見えない所でコソコソと悪巧みをしているから証拠を残されただけじゃないですか」
「ただの相談だ! 何も悪い事はしてない! 」
「ただの相談で、キスし合ったりするのですか? 」
なんだと? と、文彦は目を座らせた。
「ふーん。そっか、お前ってキスもした事ないんだよな? 」
ガシッと、乱暴に麗人の顎をつかみ取った文彦はニヤッと笑った。
「俺が何度もキスしようとしても、いつも逃げやがるし。結婚前提なんだから、やらせてくれてもいいのに。それもさせないからな」
くッと顔を近づけて来た文彦は、ニヤッと笑った。
「そんなにしてほしけりゃ、正直に言えよ。キスくらい、いくらでもしてやるから」
言いながら唇に迫って来た文彦を、麗人はグッと押しのけた。
冗談じゃない! こんな奴にとキスなんてしてくない!
でも…結構力強い…これって、欲望の力なのか?
抵抗していてもグイグイと迫って来る文彦に、さすがの麗人も押されそうになった。
その時!
「なにをしているんだ? 」
声がしてハッと驚いた文彦は、動きを止めた。
そのすきに、麗人は文彦を突き放して離れた。
「し、社長…。どうして、ここにいらっしゃるのですか? 」
声をかけて来たのは鷹人だった。
麗人はホッとした。
いくら心は男性でも、身体は女性だから、男性の強い力には押されてしまうのだと痛感した。
「ここは私の会社だ、私がどこにいても不思議ではないと思うが? 」
「そ、そうですね」
取り繕う絵がを浮かべ、ごまかす文彦を鷹人はちょっと呆れた様に見ていた。
何となく、胸の奥からジーンと込みあがって来る感情を感じた麗人は、スッと視線を落として泣き出してしまった。
この感情は…優衣里さんの悲しい気持ちだ。
きっと、この悲しみをずっと我慢していたんだ。
もしかして、朝丘さんに殴られていた事も多かったのかもしれない…。
「伊集院さん? どうしたんだい? 」
傍に歩み寄って来た鷹人は、そっと顔を覗き込んできた。
すると、頬が赤く腫れているのが目に入った。
その様子を見て、鷹人は全てを把握したようだ。