もう一度あなたに恋したときの処方箋



***



「寂しいですね」

「篠原」

「家族って、難しいですよね」

高木さんの話を聞き終わっても、私はなんて言ったらいいのかわからなかった。
ただ、これだけは伝えたかった。

「もう、あのことは忘れて下さい。私も忘れたいんです」

「だが、正樹を探して君に謝罪させたいと思っているんだ」

「いえ、私はそんなことどうでもいいんです。なかったことにしてしまいたいんです」

我慢できなくて、ポロリと涙がこぼれてしまった。

泣き顔を見られないように慌てて手で押さえたけど、高木さんは辛そうな顔をしていた。

「過去にはもう戻れません。だったら、これからのことだけ考えたいです」

「篠原………」

涙を拭いてから、もう一度高木さんに顔を向けた。

「今の話を伺って、次長と私にひとつだけ共通点がありました」

「共通点?」

「家族の影響が大きかったことです。私の場合は母親ですが、小さい頃は随分酷いことを周りから言われました。あの人は離婚二回結婚三回していて、姉と私も『奔放』だとか『淫乱』だとか言われて育ったんです」

「そうだったのか」

高木さんにも私があの時の言葉で傷ついた理由が伝わったようだ。

「私は母の生き方が好きになれなかった。おまけに、あれから男性を避けてきました」

また高木さんは辛そうに眉をひそめた。

「でも、高木次長のおかげで仕事では随分変われたと思っています。昨夜、諸悪の根源とぶつかったことで、これまでの自分の殻は粉々に壊れました。なんだか開き直れた気がします」

「お前、結構強いんだな」
「できるなら、新しい自分になりたいです」



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