もう一度あなたに恋したときの処方箋
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「寂しいですね」
「篠原」
「家族って、難しいですよね」
高木さんの話を聞き終わっても、私はなんて言ったらいいのかわからなかった。
ただ、これだけは伝えたかった。
「もう、あのことは忘れて下さい。私も忘れたいんです」
「だが、正樹を探して君に謝罪させたいと思っているんだ」
「いえ、私はそんなことどうでもいいんです。なかったことにしてしまいたいんです」
我慢できなくて、ポロリと涙がこぼれてしまった。
泣き顔を見られないように慌てて手で押さえたけど、高木さんは辛そうな顔をしていた。
「過去にはもう戻れません。だったら、これからのことだけ考えたいです」
「篠原………」
涙を拭いてから、もう一度高木さんに顔を向けた。
「今の話を伺って、次長と私にひとつだけ共通点がありました」
「共通点?」
「家族の影響が大きかったことです。私の場合は母親ですが、小さい頃は随分酷いことを周りから言われました。あの人は離婚二回結婚三回していて、姉と私も『奔放』だとか『淫乱』だとか言われて育ったんです」
「そうだったのか」
高木さんにも私があの時の言葉で傷ついた理由が伝わったようだ。
「私は母の生き方が好きになれなかった。おまけに、あれから男性を避けてきました」
また高木さんは辛そうに眉をひそめた。
「でも、高木次長のおかげで仕事では随分変われたと思っています。昨夜、諸悪の根源とぶつかったことで、これまでの自分の殻は粉々に壊れました。なんだか開き直れた気がします」
「お前、結構強いんだな」
「できるなら、新しい自分になりたいです」