イケメン検事の一途な愛


一目でもいいから会いたいと願った両親は、もうこの世にいない。
苦しいほどに胸を締め付け、とめどなく涙が溢れ出す。

どうしたらいいの?
本当の自分を取り戻すべきか。
それとも、今の自分のままで生きていくべきか。

両親のお墓はどこにあるのだろう?
父方のお墓に納骨されているのだろうか?
あの家はどうなったのかしら?
親戚の誰かが、処分してしまったかもしれない。

次々と不安が押し寄せて来る。
考えるだけで恐ろしい現実に耐えられそうにない。

養父である社長に心から御礼を言いたいが、今は顔をまともに見れない気がする。
申し訳なさに押し潰されそうで。

『失っていた記憶、思い出しました。少し整理する時間を下さい。気持ちの整理がついたら連絡します。お父さん、ごめんなさい』

養父である菅野にメールを送信し、携帯の電源を切った。

手の甲に刺さってる点滴を抜き、山ちゃんが用意してくれたカーディガンを羽織る。
バッグから財布と携帯電話を取り出して、病室を出た。

既に22時を回っていることもあり、院内は思ってた以上に静かで。
サンダルの靴音が妙に耳につく。

救急外来の出入り口から外に出て、呆然と歩く。
昼間は晴天だったのに、私の心を表すかのように土砂降りの雨が。

あんなにも思い出したかったのに……。
思い出した途端に思い出さない方が良かったと思うなんて。

そうか、思い出したくもない記憶だったから、自ら闇に葬ったのか。
そんなことも思いもしなかった…。

このままこの世から消え去りたい。
そしたら、父と母に会えるのだろうか?

あの時、一緒に死んでいたらよかったのに……。

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