イケメン検事の一途な愛


恐怖のあまり気を失ったのか、犯人の男に殴られ気を失ったのか記憶にないが、目を覚ました時には船の中にいた。
その後はベトナムの海沿いの田舎町に捨てられていたという記憶。
何日も何日も歩き続けて……。

スラム街のようなところに辿り着いて、数年そこで暮らし……。
見た目が外国人ということもあって、どこかに売ろうとしたのか。
男3人組に拉致され、人身売買のブローカーのような人の家に連れて行かれた。

その家には自分と同じような孤児が何人もいて。
売られていく子がいれば、連れて来られる子もいて。
女の子は娼婦として売られる子も少なくなかった。
そんな現実から逃れたくて、私は深夜に逃げ出した。

行く当てもなく彷徨っている時、懐かしい日本語を耳にして死ぬほど嬉しかった。
当時、記憶を失っていたから説明しようにもうまく話せなくて。
縋りつくことしか出来なかった。

その人物こそ、今の事務所の社長 菅野恵介である。

観光で来ていた菅野は私をNPO法人の団体に預け、その後何度も何度も日本とベトナムを行き来した。
名前も思い出せなく、勿論パスポートや身分証明書などもない。
孤児として一から戸籍を作り、入国後に一旦施設に入って……。
その後、法に則って自身の戸籍に養女として迎え入れた。

記憶を取り戻すことが出来なくても、ずっとそばで見守ってくれた養父。
早くに妻を亡くし、再婚することなく独身を貫いている。
それは、私の過去を公にしないためだ。

彼の人生を犠牲にさせてしまった対価として、仕事での最良のパートナーとして努力してきた。

< 51 / 142 >

この作品をシェア

pagetop