イケメン検事の一途な愛


「ん、住所入力して」

車に乗り込んだ俺は、エレベーターを降りた所にあった自販機で買ったホット珈琲を差し出し、ナビの検索画面を立ち上げた。

「すみません……」

彼女は珈琲を受け取り、無言で住所を入力し、窓の外に視線を移した。

目的地までは約20分ほど。
それほど遠くない距離に胸を撫で下ろす。

ライトアップされた街路樹を横目に車は軽快に目的地へと向かう。
信号待ちで停車した際、ルームミラーを見るふりしてさりげなく彼女の様子を伺うと、彼女の頬に涙が伝っていた。
声も出さず、肩を震わせることなく。
まるで心が死んでるかのように……。

「有難うございました」
「誰かに見られるか分からないから、着てって。後で返してくれればいいから」
「ですが…」

既に23時を過ぎようとしている時間帯。
通りを行き交う人は殆ど見当たらないが、自宅と思われるタワーマンションを見上げ、多少の不安が。
ジャケットを羽織っているからとはいえ、男性もののジャケットでは違和感しかない。
それに『来栖 湊』という名前が…。

先に車を降りて助手席のドアを開ける。

「1人で大丈夫か?何かあれば名刺にある連絡先に連絡くれれば…」
「大丈夫です。……慣れてますから」
「へ?」
「なんでもないです。……改めて連絡しますね」
「……ん」

精一杯の笑顔を作ってお辞儀した彼女は、小雨の中をコツコツとヒール音を響かせながら帰って行った。

< 6 / 142 >

この作品をシェア

pagetop