離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました

獅子と虎

　定時後、純玲は社長室の執務デスクを挟む形で百田雄一郎に対峙していた。

「個人的な話にお時間を頂いてしまい、申し訳ありません」

「いや、構わない。それで、用件はなんだ？

　社長は椅子に深く腰掛け、こちらに視線を寄越して言う。
　血の繋がりを知った今でもその威圧感には緊張させられてしまう。
　しかし、委縮している場合ではない。純玲は意を決して口を開く。

「昨日、両親から聞きました。社長が私の……父だと。真実でしょうか」

　雄一郎はわずかに目を見開くと目の前で手を組んだ。すぐに表情を戻すと落ち着いた声を出す。

「あぁ。真実だ。それで……君はどう思った？」

「正直に言うと、困惑しています。実の父は亡くなったと聞いて育ってきたので」

「それは、そうだろうな。それで、聞いているのだろう？　百田家が君を娘として迎えたいと申し出ていること」

「私は、もう結婚しています」

　父娘の間にしばし沈黙が流れる。

「……考えてみる価値はあると思うのだがな。今結婚していることは百田に迎え入れるにあたって何の障害にもならない」

　雄一郎が再び口を開く。思わず従ってしまいそうな威厳のある声音だ。