壊れるほどに愛さないで
「誰だ?」

ふいに鳴ったインターホンに、誘われるように扉を開ければ、淡い赤みがかった茶髪をふわりと靡かせてた女が、俺の胸に飛び込んでくる。

「わっ」

「雪斗ーっ!」

「え、マジで?」

目の前の女は、抱きついたまま、視線を上げると、名前と同じ、ピンク色の唇で俺の頬にキスを落とした。

「おいー、桃葉(ももは)。何で此処が、分かったんだよ」

桃葉は、悪びれもせずに、トレンチコートのポケットから、IDカードを取り出して見せると、小さく舌を出した。

「これのおかげかな。大体、雪斗連絡くれるって言って絶対しないからっ」

桃葉の手に持っているIDカードには、
『東都大学附属病院 事務員 伊藤桃葉(いとうももは)』と記載されており、今より、やや幼い桃葉の顔写真が、小さくついている。

「え?桃葉の医療事務で働いてる病院って、明日からの俺の担当先?」

「そうだよっ。うちの心臓外科医の野田(のだ)先生が、竹林(たけばやし)製薬の担当営業マンが、新しくなったからって、事務の方にも全体メール来てたからっ」

桃葉は、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねている。

「なぁ、じゃあ何で俺の引っ越し先まで分かったんだよ?病院じゃ分からないだろうが」

怪訝な顔で睨んだ俺を見ながら、桃葉は、まあるい大きな瞳を細めて笑った。
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